ハイテクと人との融合によるパラ競技の進化

2021.12.22

業界情報

パラリンピックでオリンピック並み記録の競技も

2021年7月から9月にかけて、東京オリンピック、パラリンピックが開催された。今回はパラ競技や選手もマスコミに多く取り上げられたが、9月1日実施のパラの男子走り幅跳び(切断などT64)では、パラの記録がオリを上回る可能性があったため、特に関心を集めた。マルクス・レーム選手(独)が同種目で6月に出した世界記録8m62cmは、過去のオリと比較しても金メダルが可能な記録であった。東京大会のパラでレーム選手が3連覇を達成した記録が8m18cmであり、オリと比較しても優勝の8m41cmに迫る、4位相当であった(表)。

レーム選手は前回と今回、オリへの参加を希望していたが、最終的にはかなわなかった。踏切を義足で行うので、反発力が加わり有利で、公平ではないという理由である。オリパラの記録(表)によれば、義足は走りに対して不利になる。しかし、幅跳びには、義足を上方と前方の合力として使うことができる。圧倒的な有利ではないが、ハイテクと人との融合による進化と言えるだろう。

オリンピックとパラリンピックの優勝記録の比較表1:オリンピックとパラリンピックの優勝記録の比較 出典:各種資料を元にARC作成

スポーツ義足は炭素繊維使用で高反発力を実現

写真1はスポーツ義足の例だ。曲がった部分には炭素繊維と樹脂のコンポジットを用いる。厚さ50ミクロンほどの炭素繊維シートに樹脂を含侵させ、重ね合わせ、これを50から90層の積層体とし、真空オーブンで加熱することで硬化させて製造する。形を整えて、検査をして製品になるが、軽量で鉄の10倍の強度を有する素材である。足に装着するソケットの形状は個人ごとに異なるため、ナイロン素材などを用いて3Dプリンターにより製作することもある。エリート向けは極めて高価だが、これらの技術の一般者向けへの展開も検討されている。

左:スポーツ義足、右:子供・一般用義足写真1(左):スポーツ義足の例 出典:オットーボック社   写真2(右):子供、一般用スポーツ義足 出典:ミズノ

21年9月、福祉機器メーカー今仙技術研究所とミズノは子供やエントリー層向けのカーボン製板バネを完成させたことを公表した(写真2)。両社は短距離走選手向けなどで今回のパラ参加選手用にも義足を提供していた。それらの技術やノウハウを生かす形で、義足で初めて走る人などを対象にしたエントリーモデルとして、軽量で扱い易い板バネを新たに開発したものだ。価格も安価であり、障がいのある多くの子供たちのスポーツへの参加をサポートしている。

ホンダはF1や航空機設計で培ったハイテクを車いす開発に生かす

車いすマラソンの記録は1時間20分台であり、平均時速は30kmを超える。ホンダがF1レース参加や航空機開発で長らく培ってきた技術が、競技用車いす開発にも応用された(写真3)。レーシング競技車両や航空機は軽量化と強度の両立のため金属に代わり炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が使用されている。ホンダの車いすにもフレーム部分やホイール部分にCFRPが採用されている。また、空力の知見も生かされ、風の抵抗を極力低減するデザインを実現している。一方、バスケット用車いすは激しくぶつかるため強度と、衝撃を吸収するしなやかさも必要になる。日本製はその点で優れているため海外選手も注目している。パラ競技は競技人口も少なく、収益には貢献しないが、企業の社会貢献や技術開発の場として注目される。

ホンダの競技用車いす写真3:ホンダの競技用車いす 2020年モデル 出典:ホンダ

この記事の初出は (株) 旭リサーチセンター Watchingリポートに掲載されたものです。
この記事は (株) 旭リサーチセンターの 松田英樹 が執筆したものです。