水素エンジン車が現実に、レースに参加も

業界情報

トヨタが水素の内燃機関エンジン車を開発しレースに参加

2021年9月、トヨタ自動車は開発中の水素エンジンを搭載したカローラで、「スーパー耐久シリーズ2021 鈴鹿大会」に参戦した。ここで使用する水素はオーストラリアの褐炭由来であり、副生するCO2は地中に戻す。レースで使用された水素は空輸で国内に持ち込まれたが、川崎重工などは、船舶による水素の長距離輸送を実証中である。

水素エンジン車走行写真:水素エンジン車走行の様子 出典:トヨタ

ハイブリッド車が禁止になる流れの中で内燃機関車の選択肢を増やす

トヨタは水素を燃料にする車としてすでに燃料電池車(FCV)MIRAIを市場に出している。今回の水素エンジン車は、ガソリンの代わりに水素を内燃機関で燃焼させて走行するものだ。内燃機関を使用しつつCO2発生を実質ゼロにする方法には2つある。バイオ由来やCO2を原料にして合成した持続可能な燃料を燃焼する方法と、再エネ由来の水素やアンモニアを燃焼する方法だ。7月14日、欧州委員会は 35年以降に発売する新車を排出ガスゼロ車のみとする法案を提案した。今後、欧州議会で審議されるが、もしも可決されると世界は一気にEV化にシフトすることになりそうだ。トヨタが得意とするハイブリッド車は禁止になる可能性もある。トヨタにはハイブリッドを含め内燃機関車への思いが強く、EV化の流れのなかで内燃機関の「選択肢を増やす」目的がある。

水素エンジンの開発はなぜ困難なのか

水素エンジン車は過去にはBMWなどで開発されたが、多くは失敗した。ガソリンに比べて水素の燃焼範囲が広いため、ノッキング(異常燃焼)制御やNOx(大気汚染や酸性雨の原因)の発生抑制が困難であるからだ。ガソリンと空気の燃焼組成範囲は1.4から7.6vol%だが、水素は4.0から75vol%と非常に広い。また水素の最小点火エネルギーは小さく、着火のし易さはガソリンの10倍だ(表)。

ガソリンと水素の燃焼性表:ガソリンと水素の燃焼性 出典:各種資料を元に ARC 作成

水素がエンジンの燃焼シリンダーに噴射されると、燃焼範囲が広く着火しやすいので、燃焼室内や配管の高温部分で早期着火し、異常燃焼が生じる。また水素濃度の高い部分の燃焼温度は高温になるためにNOxが発生しやすい。BMWは排ガス基準以下にまで抑制できなかった。また液化水素を用いたことでガス化や未使用水素の排気機構が複雑になったこともあり、結果的にBMWは開発を断念し、現在はFCV開発に移行している。

トヨタは過去に低NOx水素専焼バーナーを開発も課題も多い

トヨタは水素エンジン車のNOx発生がどの程度かを公表していないが、レース用車向けで使用されたため、一般車向けには低コスト化などの改良が必要だろう。トヨタは18年に、鍛造などの工業利用を目的とした水素のみを燃料とする、世界初の水素専焼バーナーを開発した。水素の燃焼特性のため、従来の水素バーナー技術では水素が激しく燃焼し、火炎温度が高温になりNOxが多く生成する。そのため水素バーナーの実用化は困難だった。同社が新開発した水素バーナーは、水素を緩やかに燃焼させる2つの新機構を導入し、NOx排出を大幅に低減した。一つは水素と酸素が完全には混ざらないようにする機構(図上)と、もう一つは酸素濃度を下げる機構(図下)だ。これらのバーナー開発の知見、経験が、水素エンジンの開発に生かされた可能性がありそうだ。

実用化には他にも課題は多い。高温水素での金属脆化、分子が小さく漏れやすい、新型MIRAIは満充填でおよそ800km走行できるが、同量の水素を燃焼させた場合には数十kmに過ぎないなどだ。一般車に拡大できるか注目される。

急激な水素燃焼を防ぐ2つの工夫(1)

急激な水素燃焼を防ぐ2つの工夫(2)図:急激な水素燃焼を防ぐ2つの工夫 出典:トヨタ@2018

この記事の初出は (株) 旭リサーチセンター Watchingリポートに掲載されたものです。
この記事は (株) 旭リサーチセンターの 松田英樹 が執筆したものです。

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