5G通信時代でスマホやアンテナ設計が大きく変わる――変性PPE樹脂 ザイロン™ができること

2021.09.15

技術・製品紹介

5G通信で抱える技術課題とは

現在、日本を含む世界では最新モバイル通信規格である5G(第5世代移動通信システム)通信が広まりつつある。5G通信基地局の設置も進行し、最新鋭のスマートフォン端末の新機種も次々と登場している。

5G通信とこれまでのジェネレーションとの違いは、「通信に高周波帯を使用すること」である。4G(LTE)通信で使われてきた周波数は「プラチナバンド」の700MHz~900MHz帯と「主要バンド」の1.5GHz~3.5GHz帯であるのに対し、5G通信で使用されるのはSub6帯(3.7GHz帯、4.5GHz帯)や準ミリ波帯である28GHz帯が中心となる。

高周波帯の電波により、従来より大容量かつ高速な通信が実現でき、動画での通話やストリーミングを快適に利用できるといった利点がある。一方で、高周波化することによる課題が出てくる。電波の減衰は周波数の2乗に比例するため(フリスの伝達公式)、高周波になるほど電波は減衰しやすく届きづらくなる。

「電波の届きづらさ」は、「通信のつながりづらさ」の原因となり、快適な通信を阻害する一要因となる。

例えば、4G通信で主に使用される周波数はプラチナバンド周波数帯である800MHzであるのに対し、5G通信におけるメインの周波数帯は28GHzであるため、先の関係より5G通信に使用される電波は減衰しやすいことが分かる。

従って、5G通信では通信基地局をこれまでより多く設置し通信環境を整える必要があるが、(本記事公開時点では)国内において充分な通信基地局数がなく、接続のしやすさにはまだ課題を抱えており、各通信ベンダーは通信基地局の増強に取り組んでいる最中である。

一方、5G通信対応のスマートフォン端末の課題としては、より快適な通信が行えるよう、これまで以上の通信性能向上が求められることになる。

5G通信対応スマートフォン端末における設計課題

現在のスマートフォン端末には、スピーカーやカメラの他、複数の通信用アンテナ、GPS、Bluetooth、Wi-Fi、キャッシュレス決済、非接触充電などさまざまな機能がふんだんに盛り込まれてる。さらにはバッテリー容量もモデルを追うごとに大きくなり、薄く小さな筐体の中に各種機能を支える電子部品が詰め込まれている。また規格の異なる電波もひしめき合っている。従来の4G通信端末においても電波干渉問題の解消は課題であったが、5G通信向け端末ではさらに電波干渉の解消が強く要求される。
図1は、スマートフォン端末におけるプラスチック製筐体内の断面概念図であり、ディスプレイや基板、アンテナの配置を表わしている。

スマートフォン内部の部品レイアウト例図1: スマートフォン内部の部品レイアウト例

従来のスマートフォンでは、筐体やアンテナの素材にポリカーボネート樹脂(PC)がよく使用されてきた。PCの比誘電率は3.0前後、誘電正接は約0.007~0.01である(製品ブランドにより異なる)。比誘電率・誘電正接は電波の減衰性と関係があり、これらの数値が高いと「電波が素材に吸収されやすい」ということで電波損失(ロス)につながり、受信感度に影響する。

4G通信までは、この程度の比誘電率であっても、従来の電波干渉対策でも対応ができていた。例えば、図1下図のように筐体にアンテナパターンを直接プリントすることで、アンテナ給電部とアンテナ間の距離を確保するという対策が取られてきた。

しかし5G通信では、電波自体が減衰しやすいため筐体での電波減衰をこれまで以上に抑える必要や、筐体内部の部品レイアウトでも電波干渉をさらに減らしていく工夫が必要となる。受信感度を良くしていくには、1つ1つの部品設計での対策の積み重ねをしてトータルで高めていくしかなく、5G通信でもそれに変わりがない。しかも、スマートフォンは筐体が「薄い」ほどユーザーに好まれる。それを、薄い筐体の中で達成しなければならない。

故に、5Gスマートフォン端末の開発においては、筐体やアンテナに採用する素材の選定から気を使うことが重要になってくるといえる。

旭化成のザイロンを5G スマートフォン端末や基地局で活用する

5G通信対応スマートフォンの素材として要注目であるのが旭化成の「ザイロン™」(以下、TMを省略)である。

「ザイロン」は旭化成の変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)樹脂であり、ポリフェニレンエーテル(PPE)と他樹脂とのポリマーアロイの総称である。旭化成が製造販売を開始したのは1979年であり、エンジニアリングプラスチック(エンプラ)においては歴史が長い素材である。また幅広いポリマーアロイのラインアップを備えることも特色である。

「ザイロン」は、優れた点を複数持つ樹脂材料として広く使用されている。高い耐熱性を備えた上、難燃性と絶縁性、寸法安定性、耐水性にも優れ、なおかつ低比重といった特長を持つ。さらには、相手となる他樹脂の特長も生かしながらPPEを添加することによってPPEの特長との相乗効果を狙ったポリマーアロイでもある。

これまでも「ザイロン」は、自動車や家電など、幅広い業界の部品や筐体に使用されてきた。特に自動車においては、低比重であることと併せ、耐熱性や難燃性も備えることから、搭載部品の軽量化を目的に頻繁に採用されてきた。

「ザイロン」の母材であるPPEは、低誘電率、低誘電正接という特徴を備えることから、情報通信分野での適用に適している(図2)。またPPEは、高いガラス転移温度を有しており、他の高耐熱性樹脂に比べて 誘電特性の温度依存性が少ない。これはさまざまな温度環境を想定される中で安定した通信品質を確保する上で、重要な利点である。

誘電特性の比較図2: 誘電特性の比較

さらにPPE由来の低誘電特性と、旭化成コンパウンド技術を組み合わせ、幅広い誘電特性ニーズに適応することが可能であり、図3のようにさまざまな誘電特性を持ったグレードを備える。

ザイロンのグレード別の誘電特性図3: ザイロンのグレード別の誘電特性

旭化成では、5G通信スマートフォンMIDアンテナ向けグレードを開発中だ。このグレードは、低誘電率、低誘電正接、耐加水分解性に優れている。それをMIDアンテナとした場合には、従来使われてきたPC系材料と比較して、トータル効率が最大で1dB改善するシミュレーション結果(図4)も得られている。対応周波数の増加やデバイスの高機能化に伴う設計スペースの制限といった課題解消が可能だ。

ザイロン™開発グレードのアンテナ効率シミュレーション結果ザイロン™開発グレードのアンテナ効率シミュレーション結果

5G基地局用途としては、アンテナカバー向けとして、耐加水分解性および高衝撃性に優れオールカラーで難燃性UL94V-0を達成した「ザイロン」443Zがある。最外装であるアンテナカバーは、電波透過性の要求から低誘電正接であることはもちろん、軽量化や耐候性が求められる。従来のアンテナカバー材にはPCなどが使用されてきたものの、誘電正接の観点で十分ではなかった。旭化成の「ザイロン」443Zをカバーに採用することで、その課題解消が期待できる。旭化成では、同グレードのさらなる低誘電化の開発も進めている。

加えて、基地局キャビティー型RFフィルター向けのグレードも開発中である。基地局では金属またはセラミック製のRFフィルターを多数個配置するため重量増になり、設置工数および作業負荷が大きくなる。さらに5G通信になれば基地局設置数も増加する。そのような中、部材のさらなる軽量化が求められることになる。同グレードでは、既に高耐熱、良メッキ性、金属に相当する低線膨張性を実現しており、RFフィルターの樹脂化に貢献しうる素材と言える。

5G/IoT通信展で5G通信向け「ザイロン」を披露

2021年10月27日~29日、幕張メッセで開催された「5G/IoT通信展」に、5G通信向けエンジニアリングプラスチック材料として「ザイロン™」「サンフォース®」を、5G通信向けエラストマー材料として「タフテック™」を出展し、大変多くの皆様に弊社ブースへお越しいただきました。

ご好評をいただきました旭化成の展示ブースを、動画でご紹介します。

旭化成の展示ブースを動画でご紹介

技術動向監修者プロフィール

米山一暢氏/技術コンサルタント
日通工株式会社(現NECプラットフォームズ)、富士通株式会社モバイルフォン事業本部、SMK株式会社 開発センターを経て、現職。

出典:この記事は、金森産業株式会社の「PlaBase」に掲載されたものです。https://plabase.com/news/8383

関連リンク:タフテック™、S.O.E.™ の製品情報:https://www.akelastomer.com/

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