Beyond5G/6Gにおける通信基盤は宇宙を視野に

2022.08.01

5G

業界コラム

宇宙統合コンピューティング・ネットワーク事業を担う合弁会社設立

2022年4月26日、NTTとスカパーJSATは、新たな宇宙統合コンピューティング・ネットワーク事業を担う合弁会社「Space Compass」の設立を発表した。両社の技術開発・事業を通じて得た知見を生かし、宇宙データセンター事業と宇宙RAN(Radio Access Network)事業に取り組む。観測衛星等により宇宙から収集される地球の膨大なデータを静止軌道衛星(GEO:GEostationary Orbit satellite)経由で地上へ高速伝送する光データリレーサービスと高高度プラットフォーム(HAPS:High Altitude Platform Station)を用いた低遅延の通信サービスで超カバレッジ拡張を実現する。誰一人取り残さない持続可能な社会の実現に向け、エネルギー・環境/気候変動・防災・海洋インフラ・スマートシティなどの多様な分野において、宇宙空間をICTインフラ基盤として全世界で効果的に最大活用できるようにすることが、全世界的に注目されている。HAPSにより先進国における災害時の高信頼通信や、船舶や航空機などへの大容量通信の提供、離島やへき地への通信サービス提供などが可能になるばかりでなく、途上国でスマホ経由でのインターネット接続環境が整備できるようになる。

今後、宇宙データセンター事業では、高度なコンピューティング機能を搭載した衛星を順次拡充し、宇宙での大容量通信・コンピューティング処理基盤を提供する。また、宇宙RAN事業では、静止軌道衛星及び低軌道衛星(LEO:Low Earth Orbit satellite)も追加・統合し、カバレッジを拡大していくとともに、無線通信広帯域化技術の開発によりHAPSの通信キャパシティ拡大を図る(図.1)。

図.1 宇宙統合コンピューティング・ネットワーク構想 出典:NTT、スカパーJSAT

携帯通信各社は衛星通信サービスの導入に注力

携帯各社はエリアを一気に拡大できる衛星通信を利用したソリューションの導入を推進している(表)。現状の衛星通信は、通信速度が低く、専用端末が必要になるなど、Beyond5G/6Gに向け解決すべき多くの課題がある。

NTTドコモは、21年2月からエアバスやノキアとHAPS型の無人機で5Gを運用する共同研究を行っている。エアバスは、動力源が太陽光で成層圏を飛行する無人飛行機「Zephyr」を開発し、航空機内での高速通信サービスやドローン制御、山岳での避難者捜索などに利用する計画である(図.2)。

図.2 無人飛行機 「Zephyr」 出典:Airbus

KDDIは21年9月にイーロン・マスク氏が率いる宇宙事業会社スペースXと提携している。スペースXが提供する高速・低遅延の衛星ブロードバンドインターネット「Starlink」は、上空550㎞を飛ぶ衛星と通信を行うことで、100Mbpsの高速通信が可能である。将来的には、これまでサービス提供が困難だった山間部や島しょ地域でのインターネット利用や災害対策などの利用が検討されている。

ソフトバンクも衛星通信に積極的に取り組んでおり、高度20㎞のHAPS、高度1.2万㎞のOneWeb、高度3.6万㎞にあるSkylo Technologies(Skylo)の3種類のNTN(Non-Terrestrial Network:非地上系ネットワーク)ソリューションを計画している。HAPSでは4Gや5G基地局を無人航空機に搭載し、高度20㎞からのサービスで、地上の基地局と遜色ない高速、大容量サービスを27年から提供する。船舶や携帯電話のバックホール向けのOneWebは、計650機の小型衛星を打ち上げ、下り200Mbs/上り30MbpsとLTE並みの速度を実現する。静止衛星のSkyloについては、IoT向けナローバンドとして22年中の商用化の予定である。

楽天モバイルは、携帯電話の基地局がないエリアをカバーするために、20年3月にAST&Scienceと資本提携した。ASTが提供する「Space Mobile」は、地表から約730㎞の高度に打ち上げられ、世界で初めて、普段使っているスマートフォンに直接接続できる衛星通信になる点が大きな特徴である。「Space Mobile」を活用することで、地上局と合わせてエリアカバー率99.9%以上が可能となる。23年以降の商用化を予定している。

衛星とスマートフォンを直接接続するための課題とは

「Space Mobile」は、人工衛星に携帯電話の基地局を載せ、1基で直径3,000㎞の巨大エリアをカバーする。この中の直径20㎞ほどのエリアにビームを当てて、LTE/5Gサービスを提供する。地上からの微弱な電波を安定的に捉えるという難題を解決するため、スペースモバイル計画で使う人工衛星側には、直径24mの巨大アンテナを使用する予定である。本番と同等のサービス形態を初めて検証するため、試験衛星「BlueWalker3」をスペースXのロケットで打ち上げる。試験用に直径8mの巨大アンテナを搭載して実証するが、本番はさらに大きくする必要がある。数十メートルにもなるアンテナユニットを折りたたんだ状態で打ち上げ、低軌道上でうまく広げられるのか、計算通りに地上と通信を確立できるのかなど、多くの課題が存在する。打ち上げの予定は22年夏以降に遅延している。

今後衛星を使った宇宙RANの新しい軸が追加になり、携帯各社のカバレッジは空や海を含めた全世界や宇宙空間もカバーする時代がやってくる。

この記事の初出は (株) 旭リサーチセンター Watchingリポートに掲載されたものです。
この記事は (株) 旭リサーチセンターの 成田誠 が執筆したものです。

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