<連載>プラスチック製品設計のためのCAE解析基礎知識

第12回 設計に活かすトポロジー最適化基礎

トポロジー最適化は、設計プロセスを加速し、無駄を省いて最適な形状を導き出す革新的な技術です。まだトポロジー最適化を活用したことがない方に向けて、トポロジー最適化の基本的な考え方や手法を紹介します。

トポロジー最適化例

目次

1. はじめに
2. 最適化の種類
3. トポロジー最適化とは
4. トポロジー最適化に必要な情報
5. トポロジー最適化結果のプロセス
6. トポロジー最適化結果から部品設計の実施
7. トポロジー最適化を活用した部品設計の課題
8. まとめ

はじめに

多くの設計者の皆様にとって、製品の機能や性能の向上と、コストや製造性などの制約条件を両立する設計を行うことは非常に大きな課題かと思います。これらの課題を解決する手法の一つに構造最適化があります。

構造物の設計最適化の考え方は1980年代からなされていたとされ1)、学術面での基礎理論の検討・産業界での応用・コンピューターの計算能力向上を経て、近年では幅広い産業領域に使用されています。
1) 西脇 眞二, 泉井 一浩, 菊池 昇, 2013,トポロジー最適化(計算力学レクチャーコース), 丸善出版株式会社

最適化の種類

構造を最適化する手法として、大きく3つの手法が挙げられます。それが、寸法最適化、形状最適化、トポロジー最適化です。
寸法最適化は、図1(a)のように部材の長さや厚みなど任意の寸法を変数として、この寸法の最適化を行う手法です。
形状最適化は、図1(b)のように外形の形状を変数として、この形状を最適化する手法です。
これらの手法は、基本的な構造は変えずに外形の微調整をしたいときには適用が向いている技術です。一方、これらの技術では構造形態を劇的に変化させることができないため、本当に構造が最適化されていない可能性があります。そこで、より自由度の高い最適化ができる手法として、図1(c)に示すトポロジー最適化が挙げられます。
本稿では、構造最適化の一種である、トポロジー最適化についてご紹介をしたいと思います。

図1 構造の最適化手法図1 構造の最適化手法

トポロジー最適化とは

トポロジー最適化とは、設計したい空間にどのように材料を配置すれば最適な構造となるかを計算する構造最適化手法の一つです
例えば、図2左のように両端支持し、底面に荷重が負荷されているケースを考えます。トポロジー最適化では、設計空間と呼ばれる材料を配置し得る領域、つまり最適化する範囲を小さい要素に分割し、各要素に関して材料の密度を調整しながら最適化計算を行います。
トポロジー最適化を実施した解析結果例を図2右に示します。カラーは材料密度を表しており、赤く示された高密度分布部分に材料を配置することで、より効率的に強度を担保できる構造であることを意味しています。

トポロジー最適化はこのように自由度高く形状を最適化できるので、人の感性ではなかなかたどり着くことが難しいような最適解を導くことができるのが、大きな利点と言えます。

図2 トポロジー最適化結果(カラー:材料密度)図2 トポロジー最適化結果(カラー:材料密度)

トポロジー最適化に必要な情報

トポロジー最適化には、以下の情報が必要となります。

  • 設計空間
  • 各種入力データ(物性、荷重条件、境界条件など)
  • 目的関数
  • 制約条件

 
1つ目の設計空間は、最適化したい部品の材料を配置し得る領域のことです。ほかの部品との干渉などの設計制約の中で、対象となる設計部品の取りうる領域を設定します。この領域が大きいほど、より自由度の高い最適設計をすることが可能となります。また、仕様として必ず材料を配置する領域を非設計空間として定義することも可能です。例えば、ある部品をボルト締結する場合、その付近の形状を固定したい領域を非設計空間として定義できます。
2つ目の各種入力データは、部品設計の仕様に関わる情報です。材料の物性(ヤング率・ポアソン比)や荷重条件、境界条件など、通常の構造解析で必要な情報が、トポロジー最適化においても必要となります。
3つ目に必要なのは、目的関数です。目的関数とは、「具体的に何を最適化したいのか」を表すものです。例えば、部品の重量を軽量化したい場合には、「質量を最小化する」ことが目的関数となります。
4つ目の制約条件とは、「どのような制約下で目的関数を最適化するか」を表すものです。例えば、目的関数が質量の最小化の問題で制約条件がなかった場合、その答えは「設計空間の質量=0」となってしまいます。これでは形状を最適化できたとは言えません。剛性を一定程度保ちつつ軽量化をしたい場合、制約条件として「荷重印加時の変形量が〇〇mm以内」として設定すると、その制約条件の中で材料密度の分布を最適化することができます。
以上がトポロジー最適化を実施するうえで最低限必要な情報となります。

さらに、製造方法に関する制約条件も考慮する必要があります。ソフトウェアによっては、このような製造方法に関する制約条件も設定したうえでトポロジー最適化を実施できるものもあります。

以上の情報の準備は、トポロジー最適化を成功させるための重要なステップです。これらを適切に設定することで、最適化の精度を高め、効率的な設計を実現することができます。

トポロジー最適化のプロセス

以上の情報が準備できたら、いよいよトポロジー最適化を実行することができます。適切な設定が完了しジョブを投入すると、コンピューター上で最適化計算が実行され、作業者は最適化結果が出るのを待つだけとなります。
ここでは、最適化計算がどのようなフローで行われているかを簡単に紹介したいと思います。トポロジー最適化計算の簡略的なフローを図3に示します。
任意の形状に対し、有限要素法(構造解析)を行い、目的関数と体積計算を行います。目的関数がある収束条件を満たしていない場合、感度計算を行います。感度計算についての詳細は割愛しますが、材料密度の配置の方向性を見出すための計算となります。そしてその計算結果から設計空間の材料配置を更新し、再び有限要素法の数値計算を実施します。このようなループを回し、目的関数が収束条件の判定基準を満たしたら、最適化が完了したとみなされ計算が終了します。
最適化計算の手法についてより詳細に知りたい方は、専門書を参照いただければと思います。

図3 トポロジー最適化のプロセス図3 トポロジー最適化のプロセス

トポロジー最適化結果から部品設計の実施

トポロジー最適化によって得られた最適化形状は、設計空間の材料密度分布を抽出しただけなので、そのまま設計形状として用いることはできません。この結果をもとにCADデータに変換・もしくは作成する必要があります。
トポロジー最適化を部品設計に活用するうえで、このプロセスが最も困難だと言えます。トポロジー最適化の形状をそのままCADに変換するだけでは、製造できない形状となる場合が多いからです。つまりこのプロセスでは、CAEやトポロジー最適化に関する知識だけでなく、実際の製造性に関する知見が必要となります。

【トポロジー最適化の実践例】
トポロジー最適化を使った部品設計の実践例が以下の技術情報ページに載っています。ぜひご参考ください。
トポロジー最適化 | 旭化成 エンプラ総合情報サイト

トポロジー最適化を活用した部品設計の課題

トポロジー最適化を活用した部品設計を実施するには、乗り越えなければならない課題もあります。

  • トポロジー最適化を実施可能な環境整備:トポロジー最適化を実施可能なソフトウェアやそれに伴うハードウェアの用意が必要となります。最適化プロセスでは有限要素法の数値計算を何回も繰り返し実施するため、ハードウェアもそれに耐えうる性能が必要となります。
  • トポロジー最適化に関する知識:前項で説明したトポロジー最適化の必要な情報に関して、適切に設定するための知見が必要となります。
  • トポロジー最適化結果から製品設計への落とし込み:前項でも述べましたが、ここには製造性に関する知見も必要となり、これらの課題の中では最もハードルが高い課題となります。

 
旭化成では、トポロジー最適化を実行するための環境や知見、そして機能性樹脂の射出成形に関する知見を有しており、トポロジー最適化を活用した樹脂部品の最適設計を提供することが可能です。
樹脂部品をより軽く、より強度の高い設計にしたい、という課題をお持ちのお客様は、お気軽にお問い合わせください。

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まとめ

本稿では、トポロジー最適化の基本的な考え方や手法について紹介しました。トポロジー最適化は、設計空間における材料の配置を最適化することで、より軽量で高強度な構造設計を可能にする技術です。
実施にあたっては、設計空間の定義、材料特性、荷重条件、境界条件、目的関数、制約条件などの情報を適切に設定することが重要です。また、最適化結果を実際の製品設計に反映させる際には、製造性やCADデータへの変換など、実務的な課題にも注意が必要です。
これらの点に留意することで、トポロジー最適化を効果的に活用し、より高性能な部品設計を実現することが可能となります。

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