バッテリーEVの熱マネジメントシステムを構成する樹脂材料 自動車
Summary
- 急速に普及が進んでいるBEV(Battery Electric Vehicle:電気自動車)では、エンジンに代わってモーター、バッテリー、インバーターの3点が主要モジュールとなります。
- BEVでは、バッテリーに蓄えられる電力が限られることから、航続距離を確保するために、モーターやバッテリーを適切な温度に保ち続けてエネルギー効率を高める必要があります。
- そのため、BEVでは、熱マネジメントシステム(Thermal Management System, TMS)が重要視されており、航続距離やコストといった目的に応じて、各ユニットの構成・組み合わせが選択され、BEVが設計されています。
- 旭化成は、バルブ・パイプ・ポンプといった、熱マネジメントシステムを構成する様々な製品向けの材料と技術支援を提案し、バッテリーEVの開発を支援します。
自動車のBEV化の進展とその課題
自動車業界において、欧州や中国を中心に、全世界的にBEV(Battery Electric Vehicle:電気自動車)化が急速に進んでいます。電気自動車では、エンジンに代わってモーター、バッテリー、インバーターの3点が主要モジュールとなります。
BEVはエンジン車と比較してエネルギー効率が高い一方で、バッテリーに大量のエネルギーを蓄えることは難しく、モーターやバッテリーをできるだけ効率よく使用する必要があります。モーターやバッテリーは使用中に温度上昇しますが、適切な温度に保つことでエネルギー効率が高まり、航続距離を延長することができます。
BEVではこの熱マネジメント(Thermal Management)技術が重要です。従来はバッテリー、パワートレイン、空調(Air Conditioning, A/C)などそれぞれのユニットを個々に管理する分散管理型が大半でしたが、車両全体で熱マネジメントを統合するBEVも出現しています。
以下の3つの課題から、熱マネジメントが重要となります。
A) BEVの航続距離の延長
バッテリーに蓄えられる電力は限られており、バッテリーを大きくすれば、BEVの車体が重くなり、また、車内が狭くなってしまいます。従って、電力消費をできるだけ減らす工夫が必要です。モーターやバッテリーの効率を高めるほかに、暖房の熱源が大きな問題です。BEVには、エンジンの排熱の様な大量の熱源が無いため、主にPTCヒーターで発熱します。最近ではヒートポンプを使って車外から熱を生む方法もあります。
B) 充電時間の短縮
充電時間の短縮もBEVの大きな課題です。急速充電では電力が増大するため、電気抵抗による発熱も上昇します。BEVの心臓部とも言えるリチウムイオンバッテリーの適正温度は一般的に0~45℃と狭いため、急速充電時に発生する熱を効率よく放熱する、制御された熱管理が必要になります。適正温度を外れると充電が遅れることに加え、バッテリーの劣化が進んでしまいます。バッテリーの冷却/加熱は、従来の空冷式から、冷却プレートに水を循環する水冷式が広まっています。
C) バッテリー寿命の延長
上記B)に記述した適正温度(0~45℃)は、バッテリー使用時にも当てはまります。バッテリーが適正温度に保たれると、長く使用できます。また温度分布が均一であるほど、バッテリー全体の能力や寿命が高まります。
BEVの熱マネジメントシステムと構成ユニット
熱マネジメントシステムは空調、バッテリー、パワートレインの3つの構成ユニットが有り、これらの熱交換を車両全体で制御した統合管理システムが構築されつつあります。ここでは、これらのユニットにおける冷却・熱源方式および構成部品についてご紹介します。

EVにおける熱マネジメントシステムを構成するユニット
1) 空調
熱源として、PTCヒーターを用いる方法が安価で一般的ですが、ヒートポンプを用いることで電力消費を抑えることが可能です。ヒートポンプは、電動コンプレッサー、遮断弁(バルブ)、膨張弁(バルブ)、切換弁(バルブ)、ウォーターポンプ、温度センサー等の部品と各部品間を繋ぐ配管(パイプ)から主に構成されます。
2) バッテリー
BEVのバッテリー周辺にはBMS(Battery Management System,電池管理システム)、電圧センサー、電流センサーが設置され、主な冷却(加温)方式には空冷と水冷があります。それぞれの特徴は下記のとおりです。
バッテリーの主な冷却(加温)方式
- 空冷:構造が簡素であり、安価です。また長い実績がありますが、冷却性能はそれほど高くありません。空冷の中でも、自然空冷と、開放式強制空冷、密閉式強制空冷の3方式が有ります。強制式には冷却ファンやダクト、流路等が設置されます。
- 水冷:冷却性能が高く、今後の高出力なバッテリーでは主流になると予想されています。水冷にもいくつかの方式が有りますが、冷却板に水を循環させるタイプを紹介します。電動ウォーターポンプ、チラー、膨張弁(バルブ)、配管(パイプ)によって冷却板に水を循環し、バッテリーパックを効率的に冷却します。冬季の低温時はPTCヒーターで水を加熱して循環します。
3) パワートレイン
駆動モーターやインバーター等にも空冷と水冷が有ります。空冷では放熱フィンを取り付けます。水冷では電動ポンプやラジエーター等が必要ですが、バッテリーシステムと連結するため、構成部品を繋ぐ配管(パイプ)やバルブが複雑になりがちです。
旭化成からのご提案①
旭化成は、バルブ・パイプ・ポンプといった、熱マネジメントシステムを構成する様々な製品向けの材料と技術支援を提案し、バッテリーEVの開発を支援します。
BEV熱マネジメントシステムのバルブ向け樹脂材料
ポリアミド樹脂レオナ™ 14G30
ポリアミド樹脂レオナ™ は強度・剛性、耐熱性、耐薬品性に優れたエンジニアリングプラスチックです。ガラス繊維(GF)のような充填材(フィラー)によって強化することで、強度・剛性、耐久性、寸法安定性を向上することができます。
レオナ™ 14G30は、強度、耐LLC性、レーザー溶着性、レーザー印字性という材料特性をもち、BEVの熱マネジメントシステムのバルブの材料として、採用された実績があります。

熱マネジメントシステムにおけるバルブの配置例

クーラントバルブシステム
BEV熱マネジメントシステムの冷却配管(パイプ)向け樹脂材料
ポリアミド樹脂レオナ™53G33
一般的に、アルミニウム合金などの金属や、金属とゴムを組み合わせた材料が用いられるBEVの冷却配管(パイプ)に、エンジニアリングプラスチックを用いることで、部品の一体化による軽量化やコスト低減に貢献できます。
旭化成では、冷却配管(パイプ)の設計の目的に応じて、適した材料と成形方法をご提案します。ここからは、パイプ形状の各種成形方法と、対応する樹脂材料をご紹介します。
冷却パイプの成形方法①:WIT(Water-Injection Technology、水アシスト射出成形)
WITは、パイプのような中空形状を得るための特殊な射出成形方法です。
溶融樹脂を充填後、表層は固化・中心部はまだ溶融状態というタイミングで、中心部に水を充填し中空構造を作ります。比較的短い(~50cm目安)ものに適していますが、分岐や異形断面・径変更が可能なため、分岐屈曲した冷却パイプに適合します。
旭化成では、WITに用いる材料として、ポリアミド樹脂レオナ™の中でも耐加水分解性・耐塩化カルシウム性・耐LLC性に優れたレオナ™53G33等をご用意しています。

- ポリアミド樹脂レオナ™ 53G33の物性表はこちら
冷却パイプの成形方法②:サクションブロー成形
サクションブロー成形は、ブロー成形加工法の1つです。
細径~太径で長尺な3次元形状の中空パイプを、耐久性・均肉性高く成形加工することができます。異形断面・径変更も可能であり、例えば、ユニット間を接続するパイプ・ダクトに適合します。
旭化成では、サクションブロー成形に用いる材料として、ポリアミド樹脂レオナ™の中でも耐加水分解性・耐塩化カルシウム性・耐LLC性に優れたグレードをご用意しています。
- サクションブロー成形の詳細はこちら
冷却パイプの成形方法③:押出成形
加熱溶融された樹脂を金型(ダイ)から押し出し、一定断面形状を連続的に成形する方法です。
細径で長尺なパイプ・チューブを得ることができます。また、後加工によって自由な配管レイアウトの構築が可能で、バッテリーパックの冷却配管や、ラジエーターとバッテリーパック間あるいはモーター間等のユニット同士を繋ぐパイプ・チューブに適合します。
旭化成では、押出成形に用いる材料として、ポリアミド樹脂レオナ™の中でも耐冷却水性に優れたグレードをご用意しています。

【押出成形用レオナ™耐冷却水性ポリアミド材料の特徴】
- 高レート押出成形性…直径16mm、肉厚1.5mmのパイプであれば、最大12m/minの高レート押出成形が可能です。
- 形状自由度が高い…金属パイプは形状を変更する際、高温且つ高圧での加工をしなければなりません。樹脂パイプは融点付近の温度に加熱することで容易に三次元加工が可能です。
- 軽量化と3タイプの提案材…金属パイプ(比重:耐食SUS316=7.98)、ゴムホースに対して、30~50%軽量化可能です。曲げ加工性および耐圧強度の要求に応じて柔軟、標準、硬質の3タイプをご用意しています。
ISO | 柔軟タイプ | 標準タイプ | 硬質タイプ | |
---|---|---|---|---|
比重 | 1183 | 0.99 | 1.00 | 1.05 |
曲げ強度(MPa) | 178 | 32 | 40 | 64 |
曲げ弾性率(GPa) | 178 | 0.8 | 1.02 | 1.64 |
BEV熱マネジメントシステムの冷却ポンプ向け樹脂材料
バイオマスプラスチック ポリアミド樹脂レオナ™ BG230
ポリアミド樹脂レオナ™ BG230は、ポリマーの60%が植物由来であるバイオマスプラスチックPA610をベースとした材料です。
PA610はPA66よりも吸水率が低いことから、水に触れる使用環境でも寸法安定性が良く、耐薬品性、耐塩化カルシウム性に優れた材料です。また、レーザー溶着性にも優れており、冷却ポンプの小型化・軽量化に貢献します。

- ポリアミド樹脂レオナ™ BG230の物性表はこちら
ポリアミド樹脂レオナ™ SG104
ポリアミド樹脂レオナ™ SG104は、半芳香ポリアミドとポリアミド66のアロイグレードです。
吸水時の寸法変化と物性低下を抑え、高い比強度、良外観、優れた流動性を特徴とした材料です。この用途で使用されるPPS(ポリフェニレンサルファイド)と比較し、成形時のガスが少なく、成形性が良いことも特徴です。
- ポリアミド樹脂レオナ™ SG104の物性表はこちら
樹脂CAE技術によるシミュレーション提案と技術支援
旭化成は、金属部品を樹脂化するためのプラスチック用CAE(樹脂CAE)の研究・応用を長年行ってきました。この樹脂CAE技術を駆使して、短期・低コストで高性能な製品開発をサポートします。
例えば、バルブや弁のような部品において金属から樹脂への置き換えを図る場合、強度や剛性の不足、ウエルドラインの強度低下が懸念されます。この場合、シミュレーション技術を用いて形状やゲート位置を検討し、ウエルドラインの影響を最小限に抑えたり、使用中に破壊や漏れが発生しないように、設計や性能予測を実施します。

旭化成からのご提案②
EV向けバッテリーの熱マネジメントに貢献するエンプラ発泡材料 サンフォース®
旭化成のエンプラ発泡材料サンフォース®は、優れた断熱性で、EV向けバッテリーの熱マネジメントに貢献します。
サンフォース®とは
サンフォース®は軽量、断熱性という発泡体ならではの性能に加えて、難燃性(UL-94 V-0)、寸法精度、薄肉成形などの、従来の発泡体を超えた機能を併せ持ったm-PPE(変性ポリフェニレンエーテル)のザイロン™をベースとした発泡体です。
サンフォース®は発泡させている分、樹脂の使用量が少ないため樹脂部を伝わる「伝導」が小さく、高い断熱性を有しています。

EV向けバッテリーにおけるサンフォース®の活用事例
バッテリーが低温になると、その出力が大きく低下する事が知られています。 電気自動車や高出力のハイブリッド車では、セルの温度低下を防止するために、ヒーター等で加熱して適温に維持する工夫をされている車両もあります。
このような課題に対し、サンフォース®でバッテリーを断熱することにより停止時のバッテリーの放熱を防止し、数時間の停車ではヒーターで加熱することなく、バッテリーの高出力を引き出すことが可能です。
また、ヒーター使用時もサンフォース®の断熱効果により外部への放熱ロスを極小化することが可能です。
さらに、運転中にセルを冷却するための電力を節約できます。サンフォース®で筐体を通じた外部からの熱影響を減らすことで、熱交換効率を上げバッテリーの性能を最大限に活かします。

また、サンフォース®は、発泡体でありながら、難燃性が必要な部分にも使用することができます。
サンフォース®は、ULのプラスチック・部材向け難燃規格「UL-94」にて、非常に高いレベルの難燃性である「V-0」の認定を、発泡ビーズ材料として世界で初めて受けています。
サンフォース®は軽量な発泡体であり、自己消火性があるという特徴から、既にEVの電池パック周辺部品での採用・検討が進んでいます。
例えば、サンフォース®を用いた車載バッテリーパック内のセルホルダーとして、次のような点での貢献が期待できます。

1.安全性の向上:UL-94 V-0の難燃性を持つ発泡素材の使用
2.軽量化:射出樹脂材料と比較して軽量化可能(10倍発泡グレードの比重0.1kg/L)
旭化成のBEV熱マネジメントシステム向け樹脂材料に関する
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