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  • 電気電子部品用途に適したイオンマイグレーション抑制樹脂材料

Summary

  • 電気電子部品用途では、短絡などによる火災発生を防ぐため、難燃剤を添加して難燃性を向上させた樹脂材料が多く使用されています。
  • 難燃剤の一部は、使用環境によって、金属を腐食する成分を発生させるものがあります。赤リンはその一例であり、空気中の水分と反応することでリン酸を発生させます。リン酸による電極の溶解がイオンマイグレーションの原因となります。
  • 旭化成のザイロンTM、レオナTMの難燃樹脂材料は、難燃剤起因のイオンマイグレーションが発生しにくく、その進行は赤リン使用品よりも遅いため、電気電子用途に好適な材料です。

旭化成からのご提案

イオンマイグレーションとは

マイグレーションには、エレクトロマイグレーションとイオンマイグレーション(エレクトロケミカルマイグレーション)の2種類があり、本ページでは外的要因に伴うマイグレーションであるイオンマイグレーションについて取り上げます。

 

イオンマイグレーションは、電極間の絶縁性が化学または熱等の要因により不良となり、電極金属がイオンとして溶出することで短絡を起こす現象です。

イオンマイグレーション発生原理と事例

電気電子部品用途では、短絡などによる火災・燃焼発生を防ぐため、難燃剤を添加して難燃性を向上させた樹脂材料が多く使用されています。

 

難燃剤は多種多様であり、各樹脂材料に適したものが使用されています。難燃剤は、まず無機系と有機系に分けることができます。無機系の難燃剤の代表的なものとして、赤リンがあります。有機系難燃剤にはリン酸エステルのリン系化合物、臭素化ポリマー等のハロゲン系、メラミンシアヌレート等の窒素系等があります。

 

こうした難燃剤の中には、製品の使用環境によって、金属を腐食する成分を発生させるものがあります。吸湿性を持つ、赤リンはその一例です。空気中の水分と反応することで腐食成分であるリン酸を発生させます(右記「リン酸発生メカニズム」参照)。リン酸は導電性を有するため、樹脂中にリン酸が生成されると絶縁性が低下し、微弱な電気が流れることによって電極である銅イオンが溶出します。

セキリンのリン酸発生メカニズム

通常、赤リンを難燃剤として使用する際は、赤リンの表面を樹脂や金属化合物によってコーティング処理を施します。しかし、処理が施されていない、あるいは処理不十分な赤リンが含まれている場合には、初期の難燃性を満たしていても、時間の経過とともに上記の赤リンのリン酸発生反応が起こり、イオンマイグレーション起因の短絡による火災に至る可能性があります。

 

例えば、2014年にNITE(独立行政法人、製品評価技術基盤機構)が公開した「プラスチックの難燃化手法と難燃剤によるトラブル事例について(PDF)」では、ACアダプターの二次側にあるDCプラグ部分が発熱して変形した事故が報告されています。原因は、DCプラグ絶縁部の樹脂材料に難燃剤として添加された赤リンにより発生したイオンマイグレーションでした。

難燃樹脂に対する市場トレンド

上記背景より、電気電子部品用途においては、イオンマイグレーションが発生しないよう、赤リン以外の難燃剤を用いた難燃樹脂材料への需要が高まっています。

 

また、昨今の地球環境への配慮から、ポリ臭素化ビフェニル(PBB)、ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDE)等の臭素系難燃剤はREACH規制の対象になっており、非ハロゲン系難燃剤のニーズも高まっています。以上より、非赤リン・非ハロゲン系の難燃剤を使用した樹脂が電気電子部品用途のトレンドとなっています。

旭化成からのご提案

旭化成では、電気電子用途で使用されるお客様の製品作りをサポートするために、イオンマイグレーション抑制、難燃性、各種電気特性(耐トラッキング性 (CTI)等)、耐グローワイヤー性 (GWIT等) 、長期耐熱特性(UL746B RTI等)、耐候性 (UL746C f1, f2)に優れたエンジニアリングプラスチックをご用意しています。

例えば、イオンマイグレーションが発生しない材料を使用することにより端子間での短絡が抑制されるため、製品の安全性向上、小型化・軽量化に貢献できます。

イオンマイグレーション抑制した赤リンフリー難燃樹脂材料

旭化成のザイロンTM、レオナTMの難燃樹脂材料は難燃剤起因のイオンマイグレーションが発生しない、もしくは赤リン使用品よりも進行が遅く、電気電子用途に好適な材料を取り揃えています。

イオンマイグレーション耐性評価方法

樹脂材料のイオンマイグレーション耐性を評価するための試験方法を説明します。

 

図1のように各樹脂材料の平板に銅電極を貼り付け、高温多湿な環境下で高電圧をかけます。

イオンマイグレーション耐性評価略図

図1:イオンマイグレーション耐性評価略図

 

この試験では下記の流れでイオンマイグレーションが発生します。

 1:高温多湿環境により難燃剤が分解して腐食成分が発生

 2:銅電極が溶解して銅イオンが発生

 3:銅イオンが電子を受け取って金属として析出

 4:上記1~3が繰り返されることで析出した銅が徐々にもう一方の電極へと伸展

 

上記の環境試験に一定時間暴露し、電極間の領域に分布する銅を元素分析で調べました。イオンマイグレーションが発生すると、図2のように銅元素が一方の電極からもう一方の電極に向かって徐々に伸展していくことが確認されました。

銅元素の分布確認

図2:銅元素の分布確認

イオンマイグレーション耐性評価結果

まず、赤リン使用品とザイロンTM 難燃グレードの評価結果を図3に示します。

ザイロンTM 難燃グレードではイオンマイグレーションが発生しておらず、一般赤リン品に対して非常に良好な結果であることが確認されました。

一般赤リン品とザイロン™のイオンマイグレーション耐性評価結果

図3:一般赤リン品とザイロン™のイオンマイグレーション耐性評価結果

 

次にレオナTM 難燃グレードの評価結果を図4に示します。

FR370はイオンマイグレーションが発生していないことが確認されました。またSN11Bではイオンマイグレーション発生が確認されましたが、その伸展は一般赤リン品の半分以下であり、進展速度が遅いことが確認されました。

一般赤リン品とレオナ™のイオンマイグレーション耐性評価結果

図4:一般赤リン品とレオナ™のイオンマイグレーション耐性評価結果

 

以上の評価結果から旭化成のザイロンTM、レオナTMの難燃グレードはイオンマイグレーションが発生しにくく、その進行は赤リン使用品よりも遅いため、電気電子用途に好適な材料であることが確認されました。


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