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2022.10.27
業界コラム
2022年6月、環境省の中央環境審議会は家電リサイクル制度の施行状況の評価・検討について環境大臣に意見を具申した。この具申の中で重点的に取り組むことの一つとしてエアコンの回収率向上をあげている。
エアコンは家電リサイクル制度の対象4品目の1つだが、他の3品目より回収率(*1) が低い。例えば、19年の回収率は洗濯機・衣類乾燥機89%、冷蔵庫・冷凍庫87%、テレビ73%に対して、エアコンは38%に止まっている。
*1 製造業者や廃棄物処理業者、自治体などにより回収・リサイクルされた台数を出荷台数で割って算定。
経済産業省と環境省は家電リサイクル制度について合同会合を定期的に開催して現状や課題について議論している。21年4月に開催された第38回合同会合では、エアコンの回収率が低い理由に①資源価値の高さ、②排出時の構造の違い、③新規購入の多さを指摘する資料が提出された(次頁の表参照)。
①と②は家電リサイクル制度の適正なルートを通さず、不法なスクラップ処理が行われることを指摘している。その主な理由として、①はエアコンの資源価値が他の3品目より高いことを、②は建物の解体や引っ越しなどの際に持ち主が廃棄を業者に委託することをあげている。③は回収率計算方法の不具合を指摘している。適正なルートで処理された台数を排出台数で割った排出台数ベースで推計すると、18年のエアコンの回収率は53%になるとしている。ただし、排出台数ベースの回収率はテレビ62%、冷蔵庫94%、洗濯機98%となり、冷蔵庫、洗濯機との差が大きいことに違いはない。
エアコンの回収率が低い理由
理由 | 内容 |
---|---|
①資源価値の高さ |
他の3品目と比べ、比較的資源価値が高く、一旦取り外せば不用品回収業者に売却可能。 |
②排出時の構造の違い |
排出には取り外し工事が必要。直接の消費者でも小売業者でもない者を介して排出されるケ 具体的例: |
③新規購入の多さ |
他の3品目と異なり、エアコン普及率が引き続き増大。新規購入・買い増しが多いため、出荷 |
出所:中央環境審議会循環型社会部会 家電リサイクル制度評価検討小委員会、産業構造審議会産業技術環境分科会廃棄物・リサイクル小委員会 電気・電子機器リサイクルWG 合同会合(第38回)資料(令和3年4月19日)を基に作成。
家電リサイクル制度に対する経済産業省と環境省の21年第42回合同会合では、排出事業者に注目した調査の結果を報告している。この調査によると事業者が保有する家庭用エアコン の廃棄は「産廃処分許可業者へ委託」が43%と高く、「産廃業者へ処理方法を任せており把握できていない」も28%ある。「リサイクル券を使用した」は20%と5分の1にとどまり、事業者保有のエアコン(*2) の廃棄は家電リサイクル制度の枠外で行われている。そして、事業者も家電リサイクル券を利用してエアコンを排出できることを知らない、つまり家電リサイクル制度を利用できることを知らないことが回収率の低い理由としている。そのため、対策として、量的効果の大きい賃貸管理業者、行動変容の可能性が高い教育委員会・学校への啓蒙活動を行うことを所轄官庁である国土交通省や文部科学省と取り組み始めたと報告している。
*2 借家住宅、ホテル・旅館、カラオケ、学校などに設置したエアコン。
出所:産業構造審議会産業技術環境分科会廃棄物・リサイクル小委員会電気・電子機器リサイクルワーキンググループ中央環境審議会循環社会部会家電リサイクル制度評価検討小委員会合同会合(第42回)「使用済エアコンの回収率向上に向けた普及啓発及び実態調査に関する取組」
22年6月の環境省中央環境審議会の環境大臣への意見具申ではエアコンの回収率向上の対策を提案している。対策は大きく分けて、①ホテルや賃貸住宅等を含む排出事業者や消費者への制度の啓蒙啓発、②違法回収業者やヤード業者などの実態把握を踏まえた効果的な対策の検討・実施の2つとなっている。
①は先述したように関連省庁と連携した取り組みを始めている。複数の省庁が協力して取り組む範囲を広げていけば成果が今後出てくる可能性は高いだろう。
問題は②の違法回収業者やヤード業者への対策である。意見具申では「市町村による規制や指導等を強化しても、違法業者は拠点を移しながら広域的に活動する現状が指摘されており、根本的な解決につながっていない」として、「国は、実態把握及びそれを踏まえた効果的な対策を検討・実施すべきである」と提案している。この提案は、エアコンの排出者や回収業者への制度の啓蒙活動や違反した場合の罰則を含む規制強化を想定しているとみられている。しかし、エアコンの資源価値が高く、スクラップとして扱い、有価な資源を回収・販売して利益が得られるのなら、利益の大きさ次第で問題の解決は難しくなるだろう。
エアコンは温暖化係数の高いフロン類を使用しており、温暖化対策の観点からも廃棄は適切に行う必要がある。エアコンの資源価値の高さによっては、新しい回収・リサイクル制度を作ったほうが現実的で有用な制度に近づくかもしれない。今後対策として行われる実態把握を踏まえた調査と、その結果に基づく効果的な対策の検討はそうした視点も入れて行うことが必要だろう。
この記事の初出は (株) 旭リサーチセンター Watchingリポートに掲載されたものです。
この記事は (株) 旭リサーチセンターの 藤井和則 が執筆したものです。
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