自動配送ロボットによる配送サービスの現状

2022.06.09

業界コラム

ロボットデリバリー協会が発足し、ロボット配送サービスを推進

2022年2月18日、川崎重工業、ZMP、TIS、ティアフォー、日本郵便、パナソニック、本田技研工業、楽天グループの8社は、自動配送ロボットを活用した配送サービス(以下、ロボットデリバリーサービス)の普及による人々の生活の利便性向上を目的とした一般社団法人ロボットデリバリー協会を発足させた。
昨今の宅配便の取り扱い個数の増加に伴う配送の担い手不足など、物流における社会課題を解決し、生活の利便性を向上させる手段として、ラストワンマイルにおける自動配送ロボットの活用が期待されている。また、政府においても、民間主導によるロボットデリバリーサービスの社会実装を後押しすべく、低速・小型の自動配送ロボットによる公道走行のルールを新たに定める動きがみられる。
こうした状況を受け、本協会は、22年を「ロボットデリバリー元年」と位置づけ、参画する各社が実証実験などによって得た知見を生かし、行政機関や団体と連携して自動配送ロボットによる公道走行するための業界における自主的な安全基準の制定や認証の仕組みづくりに取り組む。これにより、利便性と安全性を備えたロボットデリバリーサービスの基盤構築と早期の社会実装を目指す。

表1 各社の自動配送ロボットに対する取り組み ARC作成

ロボットデリバリーサービスに向けた取り組みは経済産業省が主導

経済産業省は、ものづくり/情報/流通サービスの検討会の一つとして「自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会」を19年9月30日に立ち上げた。インフラ整備の早期実現のため、ロボットの供給者である国内外のメーカー、ロボットの利活用者である運送事業者、サービサー、デベロッパーや自治体と、法規制などを所管する関係省庁が参加する協議会である。
22年2月28日に開催された第5回協議会では、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による、10件のロボットデリバリーサービスの技術開発事業の成果が報告された。屋内外、私有地、公道などのあらゆる場面で、自動走行ロボットを活用した配送技術の実証実験を行ってきた。開発項目は、配送サービスを実現するための自動走行ロボット・システムの技術開発と成果の実証、新たな配送サービス実現に向けた社会受容性向上に向けた取り組みのあり方などの分析支援であった。
技術開発面では、延べ50㎞以上にわたる走行を行い、事前に作成した安全運行に必要な本質的技術、機能、運用ルールの要件を満たすことを実証した。サービス面では、マンション内での住民とロボットの共生を前提としたオペレーションや路線バスとの連携、高齢顧客の対応などの配送事業の有用性、オフィスビル内での採算性が見合う配送サービスを実現するために必要なシステム構成について明らかにした。社会受容性の側面に関して、ロボットを配送として利用するためには、ボックスの開閉や認証の簡素化、高齢者でも使えるインターフェースなどが重要であることが明確化された。また、どの年代もロボットに対する関心が高く、配達で利用しても良いと考えていることが分かった。
今後はサービス向上に向けて、ユーザーフレンドリーな設計に必要な技術的要求事項の明確化や、事業化に向けて戦略的にスコープを絞り、自治体の協力を取り付けることがますます重要になってくる。

警察庁からは道路交通法の一部を改正する法律案が示された

第5回の協議会では、警察庁から道路交通法の一部を改正する法律案の概要も示された。自動配送ロボットの定義を、遠隔操作により通行する車であって、最高速度や車体の大きさが一定の基準に該当するものを「遠隔操作型小型車」とし、最高時速と車体の大きさを定義した。また、歩行者と同様の交通ルール(歩道・路側帯、横断歩道の通行など)を適用する考えを示した。さらに、利用に関しては、都道府県公安委員会への届け出と法令違反時の行政処分などが加わった。
ロボットデリバリー協会は、道路交通法改正のみでは不十分であり、自主的な安全基準の制定が必要と考えており、遠隔監視・操縦に係る追加項目の詳細を検討することを明らかにした(図.1)。
低速小型自動配送ロボットの公道走行運用に関する安全基準として、運用条件や運用形態、セキュリティなどの基準を制定し、認証制度を整備する。

図.1 業界安全基準の追加を提案 出典:官民協議会資料

自動配送ロボットの実証実験は事業可能性検証にまで進んでいる

22年2月の1ヵ月間、ENEOS、ZMP、エニキャリは、東京都中央区佃・月島・勝どきエリアにおいて、自動宅配ロボットを活用したデリバリー事業の第2弾実証実験を、国内初の試みである遠隔監視型のオペレーションを複数事業者の参加の下で実施した(図.2)。今回の実証実験は、事業化実証を目的としており、ニーズを検証するために、事業可能性を判断する定量的な指標として稼働率(注文数)を設定した。当初は、営業時間を11時から20時、配達時間は注文から1時間程度、配送料330円の設定で、モスバーガー、サイゼリヤ、デニーズ、肉のたかさごなど26店舗の飲食店ならびにダイエーが参加した。次に、人手が確保しづらいとされている未明、早朝の検証のため、2月19日(土)0時から7時にロボットデリバリーサービスの実証を追加した。
ENEOSが、ロボットの充電や待機の拠点としてガソリンスタンドを提供したことが本実証の特徴であり、月島では2拠点を用いてエリアをカバーした。1日平均20件の弁当を中心に、食材・日用品の注文もあった。また、未明、早朝配送では38件の軽食・飲み物などの注文があり、ニーズが確認できた。

図.2 自動配送ロボット 出典:ENEOS

2台の自動配送ロボットにルート最適化技術を搭載し配送効率を向上

21年3月、公道実証に積極的な地方自治体・茨城県筑西市と三菱商事、ティアフォー、オプティマインド、アイサンテクノロジー、KDDIなどは、道の駅グランテラス筑西を起点に自動配送ロボットによる農産物の集荷や加工食品配送を行う実証実験を実施した。農業分野での活用の事例として、高齢化による輸送を担うドライバー減少などの社会課題の解決手段としての可能性を探索した。
実証実験では、公道走行用と私有地走行用に2台のロボットを連携させることで、配送効率の向上を目的に、配送案件が発生する都度に、ルート最適化技術を用いて巡回順序の最適解を求めた。
自動配送ロボを強みとするティアフォー、自動運転用の高精度3次元地図作成技術を持つアイサンテクノロジー、ルート最適化AI技術を持つオプティマインドが協力し、さまざまな制約があるオペレーションを考慮し、自動配送ロボット運用上の問題点を洗い出した。
集荷実験は近隣の農家が摘んだ果物や野菜を道の駅のテナントに運び、配送実験は、構内のテナントからパンや菓子といった商品を集め、個人宅に届けた。
注文を受けたオペレータが顧客注文情報を入力し「注文確定」すると、自動でルート最適化システム「Loogia」に計算リクエストが行われ、その計算結果がティアフォーの自律走行ロボット「LogieeSS」に対し、APIを通じて提供するというシステム連携を実現した(図.3)。この実証実験では、注文から配送完了まで人の手を介在することなくシームレスな連携を実現することができた。
法制面での整備が進んでいるが、実運用段階では、歩道に自転車や物を放置して自動配送ロボットを止めないなど、人のマナーも重要になるだろう。

図.3 ルート最適化結果 出典:OPTIMIND

この記事の初出は (株) 旭リサーチセンター Watchingリポートに掲載されたものです。
この記事は (株) 旭リサーチセンターの 成田誠 が執筆したものです。

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