もっと面白い開発をして、次の100年を力強く歩んでいく

旭化成がなぜUDテープを開発したのか

2023.11.14

UDテープ開発

インタビュー

なぜ UDテープを開発したのかもっと面白い開発をして、次の100年を力強く歩んでいく

2022年に100周年を迎えた旭化成では、「次の100年」に向けて、持続可能な社会への取り組みや、新たな価値創造のためのチャレンジに取り組んでいます。旭化成のモビリティ&インダストリアル事業本部の複合製品技術開発部も、そのための重要な役割を担っています。

今回は、同開発部で、不織布UDテープ(Uni-directional Tape / 一方向連続繊維強化材料)の開発にかかわる木村俊太と、長年にわたり旭化成のポリアミド開発を支えてきたリードエキスパートである森勇樹に、旭化成のUDテープや、その開発経緯について尋ねました。

UDテープ開発インタビューUDテープ開発に関わる木村俊太(左)、森勇樹(右)

―― UDテープとはどのような製品なのでしょう?

森:旭化成で開発しているUDテープ(Uni-directional Tape / 一方向連続繊維強化材料)は、炭素繊維にポリアミド樹脂(PA、ナイロン)を含浸させたものであり、約半分の体積が炭素繊維です。含浸させるポリアミド樹脂は、当社のポリアミド樹脂「レオナ™」のポリマー技術がベースになっています。またUDテープは強化繊維が一方向に連続した構造になっており、繊維による補強効果を最大限に発揮させることが可能な素材です。

UD tape炭素繊維強化ポリアミド樹脂 UDテープ

―― 旭化成ならではのUDテープの特色は?

森:旭化成のUDテープ の特色は大きく3つ。「炭素繊維へのポリアミド樹脂の含浸性が高い」「接着性が高い」「吸水時の物性変化が小さい」になります。まず、使用した特殊なポリアミド樹脂は加熱によって溶融した時の粘性が非常に低い状態になります。これにより、炭素繊維の隙間へポリアミド樹脂が良く浸み込みます。炭素繊維と樹脂が良く密着し、互いが高度に一体化しているため、炭素繊維の補強効果が最大限に発揮されるようになります。含浸が不十分ですとボイドと呼ばれる空隙が多く存在することになりやすく、そのようなUDテープで作った成形品に荷重がかかった時はそのボイドが破壊の起点になりやくなります。

また特殊なポリアミド樹脂が「融けて固まる」という挙動を制御することで接着性を向上させました。UDテープに用いているポリアミド樹脂は熱可塑性ですので、金型内部で加熱して融かし、それを冷却し固化させて成形します。UDテープを重ねて加熱プレスして製作する成形品では、重ねたUDテープ同士が良く接着します。またUDテープへ加熱溶融した材料を用いる射出成形品では、UDテープと射出成形材料とが良く接着します。さらに、一般的なポリアミド樹脂は吸水による物性低下が課題ですが、それについてはレオナ™のポリマー技術が生かされているところですね。

様々な成形方法で、成形品の付加価値を高めるUDテープ

――成形技術でのUDテープの活用方法について教えてください。

木村: UDテープによる成形体と射出成形技術を組み合わせることで、射出成形品の強度補強と共に、製品としての形状を作り上げることが可能です。例えば、事前に作成したUDテープのリングを射出成形の金型に入れた上で、射出成形することにより、射出成形体の開口部がUDテープのリングで補強された成形品も製作できます。

UDテープを用いたリングUDテープを用いたリング

開口部をUDテープのリングで補強された成形体開口部をUDテープのリングで補強された成形体

また、UDテープ自体の一般な成形方法としては「加熱プレス成形」があります。必要な形状をシートから必要枚数切り抜いて金型に入れ、UDテープの融点以上の温度まで金型の温度を上げ、UDテープを溶融させた後、加圧しながら冷却します。そうすることで、テープ同士が一体化した成形品が得られます。また炭素繊維が連続的であることが強みのUDテープを、例えば数センチ角の矩形状に裁断し、それを金型へランダムに充填して加熱プレス成形するという方法もあります。これだと3次元的に複雑な形状をした製品にも対応できます。

数センチ角のUDテープをシート状に成形したもの数センチ角のUDテープをシート状に成形したもの

シート(左)を複数枚を重ねて加熱プレスした成形品シート(左写真)を複数枚を重ねて加熱プレスした成形品

次に、「レイアップ成形」では、レーザー加熱でUDテープを溶融させながら貼り付けていきます。必要な箇所に必要な方向でテープを貼ることができるため、UDテープを効率的に活用できます。最後に、「ワインディング」と呼ばれる、回転する軸にUDテープを溶融させながら巻き付ける手法では、プレス成形では製作困難なパイプ形状やリング形状のものが製作可能です。

UDテープを用いた高強度パイプ部品UDテープを用いた高強度パイプ部品

UDテープ開発秘話

―― UDテープが開発された経緯についてお伺いしたいです。

森:それを説明するには、過去の開発から紐解かなければ。旭化成はポリアミド66をベースに、いろいろなモノマーを重合し、さまざまな種類のポリアミドを作ってきました。90年代後半、“ヒット商品”ともいえる、「レオナ™ 90Gシリーズ」が誕生。これは、ポリアミド66に芳香族成分を導入した半芳香族ポリアミド66ポリマーをベースにしており、ガラス繊維などを高濃度に配合して強化した射出成形グレードを展開してきました。

当時、私は90Gシリーズの拡販を目指して、国内および海外の顧客へのテクニカルサポートを担当。順調に数量を伸ばしていましたが、日本から遠い欧米の顧客からコストについての指摘を徐々に受けるようになりました。ベースポリマーを重合する設備は宮崎県延岡市にあり、そこから海外へ向けて輸出していたためです。そこで、コストをミニマイズする現地生産化スキームを考案し、推進しました。さらに、レオナ™ 90Gシリーズが登場して約20年後の2018年には、更に芳香族成分の比率を高めた半芳香族ポリアミドポリマーが誕生し、それをベースにしたレオナ™ SGシリーズの市場展開を進めています。

 

――「UDテープに取り組もう」と思ったきっかけはあったのですか?

森:ありました。 実は2017年の研究計画でコンポジット材料と射出成形を組み合わせるというアイデアを検討していました。そして2019年に、懇意にしていたドイツ系企業の開発リーダーと話している時に、「実はこういうことをやろうとしているんだけど……」とUDテープ活用の動画を見せてもらった時が開発をスタートするきっかけです。それを見て、「UDテープと旭化成の射出成形用材料との組み合わせで、お客さまの金属部品の樹脂化ニーズにタイムリーに応えたらいいのではないか」とひらめきました。それであれば、材料開発に長年の月日をかけずにすみますし、旭化成の射出成形材料の付加価値向上にもつながって拡販にもつながります。これまでの「お客さまのご要望に応じた新材料を開発する」という「モノ売り」から、「金属部品の樹脂化を支援する」という「コト売り」にシフトしていけることにも。そういう、能動的で創造的な仕事の方が、やりがいがあって、面白いと私は思います。

 

UDテープ開発インタビュー

―― 旭化成は、UDテープ参入において後発ですが…

森:はい、炭素繊維メーカーが先発組で、我々はかなり後発です。でも、そういう新しいチャレンジをしなければ、今後、旭化成が大きく成長できないと考えました。だから私は開発責任者として、経営層に「お客さまの“御用聞き”だけでは、今後立ち行かなくなる!」「もっとチャレンジしましょう!」と、頑張って発破をかけてまわりました。技術者たちには、「一緒に、もっと面白い開発をしようよ!」と。

 

―― 木村さんがUDテープの開発にかかわったきっかけは?

木村:私は、2019年から森さんの部下となり、UDテープの開発を一緒にやっています。もともとは、2017年に入社以来、リサイクル炭素繊維 (rCF) の活用に携わっていました。その中で、比強度と比剛性に優れるrCFで強化した射出成形グレードの用途開発をする傍ら、脱射出成形によるエンプラ事業のポートフォリオ転換のため、繊維長が数センチのオーダーで長いrCFとレオナ繊維を組み合わせる不織布の開発に取り組んでいたのがきっかけです。

このような複合材料は、成形方法や評価手法など射出成形材料とは全く異なります。文献調査やセミナー、展示会に参加することで知識を増やすとともに、実際の現場でオペレーターと手を動かしながら加工条件の最適化など四苦八苦した日々は大変でした。ですが、今振り返ると掛け替えのない経験です。この時に得た知見と成形メーカーや研究機関との繋がりが、現在のUDテープ開発にも生きています。

UDテープ開発インタビュー

UDテープの今後

――UDテープの想定用途分野や、今後の展開について教えてください。

森:現在、UDテープは2025年から2026年の上市を計画して開発を進めています。電機・電子部品、スポーツ・レジャー用品、建築材料から広めていけたらと思います。ゆくゆくは自動車部品や航空機部品も、ですね。例えばスポーツ分野だと、ゴルフクラブやシューズなどに応用できると思います。

また、今後、我々と協業してくれる企業さんとの出合いが大事だと思っています。特に、プラスチック成形にかかわる、大小を問わない企業さんです。旭化成というと「大手」というイメージなのかもしれませんが、私たち自身はスタートアップ企業だと思っています。とにかく「面白いことをやって、一旗揚げたい」と考えている企業さんと一緒に、UDテープを使った面白いビジネスをしていきたいですね。

そして、木村さんたち世代の新しいチャレンジで旭化成という企業をもっと進化させ、旭化成の次の100年を支えていってほしいと思っています。

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UDテープ

UDテープは、金属部品の樹脂化の可能性を広げる、強度・剛性に優れた炭素繊維強化テープ状の材料です。

PA樹脂 レオナ™

レオナ™は、耐熱性、強度・靭性、絶縁性、耐油性に優れます。自動車部品、電機・電子部品等、幅広く採用されています。