お客様の製品開発・量産立ち上げを多拠点連携でトータルサポート

技研サカタシンガポールの挑戦を支える、旭化成の力

2024.02.13

Giken Sakata Asahi Kasei Interview

インタビュー

技研サカタシンガポールの挑戦を支える、旭化成の力お客様の製品開発・量産立ち上げを多拠点連携でトータルサポート

急速に経済発展する中で酷い交通渋滞が深刻な社会問題となっているインドネシアやインドでは、生活の足としてバイクが欠かせません。そしてバイクも、カーボンニュートラルの追い風から電動化が加速しています。技研サカタシンガポールは、シンガポールに本社を置くメーカーで、東アジアをメインターゲットとして電動バイクを販売しています。同社傘下のGiken Mobility(以下、「Giken Mobility」)初の電動バイクが「Iso UNO-X」です。そして、このIso UNO-Xに、旭化成の変性PPE樹脂「ザイロン™」とポリアミド樹脂「レオナ™」が採用されました。

今回は、技研サカタシンガポール会長であるYeung Kin Bond, Sydney氏と、Giken Renewable Energy SolutionsのRaj Srinivasan氏に、技研サカタシンガポール グループのビジネスやIso UNO-Xの開発、旭化成とのかかわりなどについてお話を聞きました。さらに、Iso UNO-Xのプロジェクトを裏で支えた Asahi Kasei Plastics Singapore(APS)の曽根 正人とChristopher Ongも、技研サカタシンガポールとのかかわりの中でのエピソードについて話してくれました。

精密シャフト製造のプロの技術と想いを引き継いで

技研サカタシンガポール会長 Yeung Kin Bond, Sydney氏技研サカタシンガポール会長 Yeung Kin Bond, Sydney氏

―― 技研サカタシンガポールについて教えてください。

Yeung氏技研サカタシンガポールは1979年創業した精密機エンジニアリング製品・部品メーカーです。当社は、SGX 上場企業である GSS Energy の完全子会社です。事業としては、プラスチック射出成形、プリント基板アセンブリー、精密シャフト設計・製造、完成品アセンブリーなどを行っています。技研サカタシンガポールは日本にルーツがある企業です。創業者が日本人であり、かつては日本に本社があり、1992年になって、シンガポールに本社を移転しました。現在、当社全体の従業員は2,000人を超え、シンガポールだけでなくインドネシアや中国にも拠点を置いています。また、タイにも開発センターがあります。

技研サカタの創業者、横田栄氏は50代で会社を興し、現在95歳。彼は78歳で会社を引退しました。彼の見識や助言は、今でも私の役に立っています。今後も、精密工学の専門知識によって築かれた製造技術と、”常に最高の製品と技術をお客様とパートナーに提供する “というコミットメントを大切にしていきます。

技研サカタシンガポールは長年、精密シャフトなどのOEM(Original Equipment Manufacturing)を主軸としたビジネスを行ってきましたが、2019年より新たにODM(Original Design Manufacturing)の取り組みを開始。ODMで主要なターゲットとする分野の1つが電気自動車(EV)です。Giken Mobilityによる事業や、Iso UNO-Xの開発もその一環ということになります。

――Iso UNO-Xとはどのような製品ですか?

Yeung氏: Iso UNO-X は、「Iso Motorcycles」ブランドの製品で、Giken Mobility初となる電動バイクです。航続距離は92 km (WMTC)ですが、実走行では時速45kmの定速走行で130km以上、最高出力 11 馬力 (8.5 kW) の電気モーターを備え、0 ~ 50 km/h で 4 秒未満という素早い加速性能が自慢です。まずは香港で販売開始していますが他国へも展開していきます。次はタイが有力候補であると考えていますが、ASEANにおいて最大の市場であるインドネシアへも進出する計画です。

電動バイク 「Iso UNO-X」電動バイク 「Iso UNO-X」

―― 電動バイクというテーマを選んだ理由は?

Yeung氏:当社は、以前から東南アジアの教育格差、モビリティやデジタル格差をなくしていく活動に積極的に取り組んでいます。東南アジアでは貧困問題が深刻化しています。「バイク」は生活における利便性を図る移動手段であるほか、貧困から抜け出すための大事な商売道具の1つともなっています。教育や雇用の機会を高めるため、われわれの強みを活かして、「なるべく手頃な価格で、しかも高品質な電動バイクを生産すること」が、社会貢献につながると考えています。

旭化成との共創について

Yeung氏:Iso UNO-Xの開発では、我々は安全性を最優先と考え、高品質な部品を使用することに注力しています。バッテリーやモーターを保護するケースは、あらゆる場面において安全性を最大限に高めるための非常に重要な部品です。そのため、バッテリーケースには、絶縁性と耐火性に優れる旭化成のザイロン™を採用しました。また、Iso UNO-Xのモーターケースは液冷方式を採用しています。その筐体において、必要な耐水性と各種要求特性を実現可能なレオナ™を採用しました。

LIBカバーリチウムイオン電池(LIB)カバー向け「ザイロン™ 443Z」

モーターカバーモーターカバー向け「レオナ™ 53G33」

曽根:Asahi Kasei Plastics Singapore(APS)は、2002年に、ザイロン™のベース樹脂PPEの生産およびグローバル供給を担う拠点として設立されました。現在は、ASEAN・インド地域において、旭化成の3大主要エンプラブランドである、ザイロン™レオナ™テナック™のコンパウンド製造から販売、技術サポート、研究開発まで幅広く担っています。シンガポール以外では、タイ( Asahikasei Plastics Thailand(APT))にもエンプラのコンパウンド製造・販売・技術サポート拠点があり、インドネシアとインドの拠点にマーケティング部隊、さらにベトナム(Asahi Kasei Plastics Vietnam(APV))にはCAE専門の拠点があり、各拠点が日々連携して業務を行っています。

APSでは、「ASEAN・インド地域の社会課題の解決や人々の生活向上に貢献する」ことをミッションとし、拡大成長する電動二輪市場において存在価値の高い「ソリューション・プロバイダー」になることを目指しています。お客様から良きパートナーとして認めてもらうこと、またお客様と継続的に共創できる環境を構築することが最重要であると考え、日々活動しています。技研サカタシンガポール様とは、そのような関係を構築し、ASEAN・インドにおける電動二輪事業の拡大を目指し、共に製品開発に邁進しているところです。

Asahi Kasei Plastics Singaporeの曽根 正人(左)とChristopher Ong(右)Asahi Kasei Plastics Singaporeの曽根 正人(左)とChristopher Ong(右)

―― 技研サカタシンガポール様の開発現場で、APSとどのような形で開発をしていましたか?

曽根:技研サカタシンガポール様との開発では、まずはタイのAPTメンバーがLIBパックとモーターハウジングの開発を協業で進めてきました。その後このプロジェクトにAPSも参画し、現在では技研サカタシンガポール様/APT/APSで連携しプロジェクトを進めさせていただいております。APSでは現在、Rajさん含め様々な方とやり取りをしております。また当社側では、Chrisがハブとなり、エンジニアリングプラスチック製品のご提案、技術サポート、樹脂CAEシミュレーションなど、旭化成内の各チームの連携を取りまとめています。

Raj氏:われわれは多くの企業と共に取り引きし、難易度の高い課題に挑んでいます。そのような状況で、Chrisさんたちに相談したりアドバイスをもらいに行くことも多く、とても頼りになります。

Chris:Rajさんとは2020年頃から一緒に仕事をさせていただいていますが、親密な信頼関係を築けています。

Giken Renewable Energy Solutions Raj Srinivasan氏Giken Renewable Energy Solutions Raj Srinivasan氏

―― 技研サカタシンガポール様の開発現場で、課題となっていたことはありますか?

Raj氏:課題は、私が管理する設計開発部門のエンジニアたちの、プラスチックの性質や加工に関する知識の獲得です。元々彼らの得意分野は、エレクトロニクスやソフトウェアでしたので、プラスチックを用いた部品設計や成形の詳しいことについては私から正しく、分かりやすく説明するのに苦労しており、どのようにうまくやればよいかAPSに相談をすることもありました。開発初期の設計段階ではプラスチックを用いた設計の知見や材料データなどを共有いただくといった支援をしてもらいながら、試作フェーズに入ると樹脂CAEシミュレーションのサポートも受けました。試作に入る前に精度の高いCAEシミュレーションを行うことで、製品開発のスピードアップに繋がりました。

Chris:樹脂CAEでの検証には、非常に時間をかけました。Rajさんと話しながら様々な制約条件を設定し、樹脂CAEシミュレーションを行い、設計案を探ります。例えば、Rajさんたちが開発するバッテリーパックでは厳しい認証を通さなくてはならず、中でも安全性の試験が重要でしたので、そこで樹脂CAEによるシミュレーションを行いました。

Raj氏:特に東南アジア諸国のように外気温が高い場合、バッテリーパックは非常に高温になり、その熱が車両の性能に多大な影響を及ぼし、故障の原因にもなり得ます。実は、以前の設計で、私はとにかく、放熱性に優れている金属の部品をたくさん使用して、それで放熱させたらいいのではと単純に考えていたのですが、製品が非常に重たくなってしまったのですね。そうしたら、Chrisさんが「一部の部品をプラスチックに置き換えるべきでは」とアドバイスをくれたことがきっかけで、プラスチックを使った製品の成立性を共に検証することになったのです。今回はAPSのChrisさんとの話が中心になりましたが、樹脂CAEシミュレーションでは旭化成プラスチックスベトナムの方々に、実製品の成形サポートの際には旭化成プラスチックスタイランドの方々にも大変お世話になり感謝しています。

―― CAEを活用する効果について、どうお考えですか?

Raj氏:樹脂CAEシミュレーションは製品開発において設計、試作、評価のプロセスにかかる時間とコストを最小限に抑えるために不可欠です。特に、EVに搭載されるバッテリーパックは人命に関わるため安全性は絶対に確保しなければなりません。実物を用いた評価ばかり増えてしまえば、いくらお金と時間を費やしても製品は市場投入できないでしょう。

―― 旭化成によるCAEシミュレーションの強みは?

Chris:プラスチック材料の特性や射出成形技術を熟知しており、独自に材料物性データ・技術情報を取得しているところであると考えています。

Raj氏:旭化成のシミュレーションの精度はまことに驚異的でした。おかげで、設計案の検討を十分に行うことができ、かつ実物で試作した際の修正も軽微で済みました。

今後の取り組みについて

―― Iso UNO-Xのような自社ブランド製品を今後もいろいろ立ち上げていくのですか?

Yeung氏:少なくとも今は、既にブランドを持っている企業と、志を同じくしてビジネスを行いたいと考えています。現実問題として、当社がOEMからODMに移行するにはもう少し時間がかかりそうだということもあります。当社最大の強みは、やはり40年以上にわたって培ってきた精密部品・機械製造のノウハウです。当社は精密シャフトからプリント基板、EV用バッテリーまであらゆる分野の製品を提供することができます。

今後、EVの市場は世界中でますます拡大していきます。我々が開発するバッテリーパックをEV向けに展開し、ひいては他分野にも展開し、それで社会問題の解消、カーボンニュートラルや経済発展といったことに貢献していきたいと考えています。技研サカタシンガポールは、EVのような新たなビジネス領域に取り組むときは、全て自分たちの手で取り組もうとは考えず、同じ志を持つ良きパートナー企業を探すことに注力しています。旭化成さんのように、思いを同じくした深い関係である良きパートナー企業と共に、さまざまな課題解決と共創に取り組んでいきたく考えています。

Giken Sakata Asahi Kasei

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